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26才のパティシエールと、天使が見える男の子のお話。
日々忙しく仕事に励む女性と、そこの立ちはだかる大きな壁。
天使の友達としか遊ぶことのできない幼稚園児の甥っ子。
現実とファンタジー、全く別の世界を生きる二人の日常が少しづつ重なり始めた時、ページをめくりたい気持ちと、これ以上話を進ませたくない葛藤がありました。
雫井脩介さんの本は、とても読みやすく綺麗なものが多いと思います。
こちらもその一冊で、最後の最後まで小麦の強さや、家族の愛を感じられました。
この話の中で一番好きなのが、代二郎の妻で、叶夢の母である「道恵」です。
同じ年頃の子を持つ母親として共感したところもたくさんありますが、道恵の言動がとてもまっすぐで、現実味が出たというか、天使のいるファンタジーの世界からぐっと現実へ連れ戻される要素がありました。
「代ちゃん、叶くん連れて、様子見に行ってきたら?」
本文より
「そうだな……お前は?」
代二郎が訊き返すと、道恵は首を振った。
「私はいい……何か見てられなくて」
その気持ちは分かるので、代二郎は無理に誘わなかった。
小麦の秘密を知った代二郎と道恵の会話の中で、一番印象深かったものです。
26才という若さで、未来が決まってしまった小麦に対し、道恵は素直に応援することができません。
これってすごく分かる。
声に出しちゃいけないと思って今まで閉まっていたことを道恵に代弁された気分でした。
これをしっかり受けとめる代二郎もすごい。
小麦と年の近い道恵だからこそ持つ感情なのではないかと思います。
そんな道恵が覚悟を決め、夢を追い始める姿も素敵です。
子どもの将来を考えてばかりで、自分のことなんて後回し。
子どもが大きくなったパートでもするか、くらいが主婦としての未来予想図でしたが、「私もまだまだ何か出来るんじゃないか」と希望を持たせてくれる人物でした。
後半のストーリーは何となく予想してしまいますが、それを覆すほど「生」に満ちた話が多く、どんどん明るさを増していきます。
次のページへ進みたいけれど、先のことを知りたくない気持ちもあり、あんなに時間をかけて読み終えたのは初めてです。
温かさ溢れる一冊でした。
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